Anna Lee/Levon Helm

先日届いた『Dirt Farmer』の中に、ほとんど無名のミュージシャンの曲も1曲含まれていた。Laurelyn Dossettという女性SSWが書いた「Anna Lee」で、そのメロディは、前にどこかで聴いたことがあるようななつかしさと泥臭さが混じり合ったものだった。そのおかげで、アルバムの中で浮いた存在にはなっていなかった。
断片的に耳に入る歌詞から察すると、Anna Leeというヒロインが、2人の子供を残してどこかに去って行く歌のように思われた。
子供を残して家を出るといえば、Pentangleの「House Carpenter」がすぐに浮かぶ。確か、夫以外の男性と駆け落ちし、やがて海の底深く沈んでしまうというヘヴィな内容だった。一方、「Anna Lee」は、少なくとも、私の中途半端な聴き取り力に頼った限りでは、同じような展開のストーリーではなさそうだった。でも、それを確かめるために、詳しい歌詞が知りたくてたまらなくなった。
この曲だけでなく、Laurelyn Dossett自身にも多少興味があったので、検索してみると、本人のサイトがすぐに見つかった。あいにく歌詞は出ていなかったので、ダメ元で本人に問い合わせることにした。
4、5日経ち、返事をほとんどあきらめていた頃に、遅くなったことを詫びるコメントと共に歌詞が届いた。彼女によると、尊敬すべきLevonのアルバムに自分の曲が取り上げられたのはこの上もない名誉であり、しかも、その曲に興味を抱いたリスナーが、遠く離れた日本にいることがわかって、とてもうれしいとのことだった。
この曲は、アパラチア地方の古いマウンテン・バラッド・スタイルで書かれたものだという。なるほど、そのせいで、最初に聴いた時に、どこかなつかしい印象が感じられたというわけだ。
そして、丁寧に教えてくれた歌詞によると、Anna Leeは、ある朝早く、子供を残して、町に住む姉の看病に出かけることになった。やはり、駆け落ちでも何でもなかった。ところが、その先がよくない。風雨の中、川にさしかかった彼女が、そのまま轟流に呑み込まれてしまう様子が、詩的に表現されていた。
考えてみれば、子供を残して水死するという展開は、「House Carpenter」も同じ。しかも、その原型はイギリスの伝承バラッドだけれど、後にアメリカに渡り、アパラチアのマウンテン・バラッドとして、有名無名問わず、多くの人々に歌い継がれてきたものなので、何らかの影響を与えたり、共通点があるのも当然のことだろう。
とはいえ、その末路が自業自得ともいえる「House Carpenter」のヒロインに比べ、Anna Leeは、あまりにも不運で、気の毒すぎる。

Us And Them/Pink Floyd

3日前の朝、締切りギリギリで仕事が終わり、ほっとひと息つく間もなく、そのまま勢いに乗って自転車でフラフラと紅葉見物に出かけた。結局、その日はそれで精一杯。たまっている雑用に一切手をつける気力も体力もなく、そのまま1日が終わってしまった。
そして、一昨日から、少しずつ従来の生活に戻っていくつもりだった矢先に、ショッキングなニュースが届いたため、時間が止まってしまった。
かつてのネット仲間の訃報だった。今でこそ私のネット生活は「mixi」が主流になっているけれど、それ以前によくお世話になっていた音楽BBSの中の1つの常連さんの1人で、メール交換やBBS上でのやりとりだけでなく、直接お目にかかったこともある人だった。長い闘病生活の末に、先月亡くなられたという。
実は、直接の対面はたった1度きりなので、それほど親しい間柄だったとは言えないはずなのに、自分でも驚くほどショックの度合いは大きい。その訃報を受けて以来、まるで全身がフリーズしてしまったかのように、なかなか何も手がつけられない状態が続いている。
彼女ともっと親交の深かった方々が、私以上に動揺していることは、訃報に対して寄せられた数々のコメントからも察せられる。当然のことだろう。
Neil YoungPink Floydがお好きで、キルト作りの名人でもあり、何らかの交流のある音楽仲間には、それぞれの好みに合わせた作品を惜しげもなくプレゼントしてくれるような人だった。私までその恩恵を受けている。私のためにわざわざ作ってくださったのは、Nicky Hopkinsのアルバム・ジャケットをモチーフにした、可愛らしい作品だった。
主婦業の傍ら、興味ある分野の大学の講義も受けていたという話も聞いていた。向上心のある人だったということが、そんなことからも推し測られる。
数年前に、私生活の多忙を理由にネットから離れ、1年ほどすれば復帰すると言っていたのに、そのままになっていたので、いつしか彼女のことを話題にすることもなくなっていた。
それなのに、久しぶりに彼女の名前を口にしたのは、訃報が届くちょうど前の日のことだった。植物園で紅葉見物をしている時に、彼女が愛用していたハンドル・ネームを連想させる木を見つけ、ふと、彼女を思い出し、その近況が気になったばかりだった。ただの偶然と言ってしまえばそれまでだけれど、そんな風には思いたくない。そして、これから先、再びどこかでその木を眼にするたびに、きっと彼女のことが浮かぶに違いない。
春に、淡い色の可憐な花が咲くというその木の名前は「はなみずき」。

Calvary/Levon Helm

8月に予約していたLevon Helmの『Dirt Farmer』がようやく届いた。25年ぶりのソロ・アルバムだということを抜きにしても、純粋に私好みの音であることは、事前の試聴ですでにわかっていた。そして、実際に聴いてみると、当然、それ以上のものだった。
咽頭癌を克服したLevonが、どのようないきさつでこのアルバム発表するに至ったかについては、ライナーノーツに彼自身の言葉でわかりやすく語られていて、それを読むだけで涙が出てきた。
取り上げてられている曲はいずれも、彼が幼い頃から慣れ親しんできたトラディショナルや、他人のカヴァー曲ばかりであるけれど、その1つ1つについても丁寧にコメントされていて、それらがいかに愛着をもって選ばれたかということがよくわかる。
その中で、アルバム・タイトルのヒントにもなった「Poor Old Dirt Farmer」は、『The Dollmaker』の製作中に知った曲だという。『The Dollmaker』?それは、忘れもしないタイトル!
再結成The Bandが来日した時、Levonと交わした会話の中に、その数年前に観た『Coal Miner's Daughter』の話もあった。そこから映画の話題に発展し、今後の出演予定を尋ねると、すでに私も知っていた『The Right Stuff』の他に、『The Dollmaker』でJane Fondaと共演することも教えてくれた。ところが、何年待っても、公開のニュースは届かなかった。実は、劇場公開作品ではなく、TV用の作品だということがわかったのは、ずいぶん後になってからだった。結局、現在に至るまで、観る機会がないままだけれど、こんなところで改めてその題名を眼にすると、観たくてたまらなくなってくる。
さて、いずれ劣らぬほど趣味の良い選曲の中で、ラストを飾るのは、Buddy & Julie Millerによる「Wide River To Cross」。最後にこの曲を選んだのは、歌詞がそのまま彼の気持ちを代弁しているからに違いない。この何年間かに彼が味わったであろう様々な事柄を想像し、歌詞と照らし合わせながら聴いてほしい。たとえば、♪I'm only halfway home, I gotta journey on to where I'll find the things that I have lost. I've come a long long road, still I've got miles to go, I've got a wide wide river to cross〜♪というフレーズなんて、誰もが眼を潤ませるはず。
性悪美女に、人生をメチャクチャにされた(?)男性のことを歌った「False Hearted Lover Blues」をあえて1曲目にもってきていることと対比させると、何だかニタリとしてしまう。もちろんこれもまた、私のツボにドンピシャリとはまるほど、お気に入りの曲なのだけれど。

Turn To Stone/Joe Walsh

週末に休めるのは久しぶり。これを逃すと、月末まで休みはない。だからといって、自転車で遠出したくても、天気が味方してくれず、ちょっと近所に出かけただけで終わってしまった2日間だった。特に何をしていたわけでもなく、しいていえば、Brian Jonesの最期の数ヶ月を描いた『Stoned』を見たぐらい。
この映画のことを知ったのは、2年以上も前だった。当初は興味津々だったけれど、去年、ようやく日本公開された時、何だかわざとらしい取り上げられ方にシラけてしまい、劇場に足を運ばないまま今に至っていた。それでも、完全に無視することもできず、最近TVで放映されたのを録画してもらい、ようやく見ることができたという次第だった。とはいえ、ほぼ予想通りの出来ばえで、最初からケチばかりつけていた。
そんなわけで、画面に見入る気にもなれず、気になることといえば「枝葉末節」の部分ばかり。まずは、劇中で流れた「Love In Vain」。画面から気をそらしていた上、フォークっぽいアレンジの女性ヴォーカルだったので、♪Well, I followed her to the station with a suitcase in my hand♪という、おなじみの出だしの歌詞を聞くまでは、何の曲なのかわからなかった。初めて聴くカヴァー・ヴァージョンなので、気になって、見終わってから早速検索すると、歌っていたのはHaley Glennie SmithというUKの女性シンガーだった。改めて試聴してみると、歌の部分はかなりアレンジされているのに、イントロのメロディはそのままなので、もし真面目に見ていたら、その部分だけですぐに気付いたはず。
次に、字幕に出たAnitaのセリフの1つに「今度、フォルカーの映画に出るの」というようなものがあった。その映画とは、Brianがサウンドトラックを担当することになったドイツ映画『Degree Of Murder』のことだということは、もちろんすぐにわかったけれど、「フォルカー」が、『ブリキの太鼓(The Tin Drum)』などで有名なドイツ人監督、Volker Schlöndorffのことだということまでは、最初、まったくピンとこなかった。これについても後で調べて確認できただけでなく、さらに意外な事実までわかった。 何と、この監督は『Degree Of Murder』以前に、『テルレスの青春(Young Torless)』まで作っていたのだった。実際に見たことはないけれど、忘れもしないこのタイトル!これは確か、デビューまもない頃のMathieu Carrièreの主演作品だったはず!
Brianの映画を見ていたはずなのに、映画そのものに対してではなく、そこから派生したまったく別の話題に興奮するなんて、いかにも私らしい。

Hot Summer Nights/Night

今年から最高気温が35℃を超える日を、「猛暑日」と呼ぶことになったという。ここ京都では、すでにそんな日を何日も体験している。最初、うっかり「酷暑日」と覚えていたけれど、たとえ何と呼んだところで、涼しくなったりはしない。今朝は特にひどかった。息苦しくて眼が覚め、時計を見たら3時半。扇風機の温風が、不快感をさらに高めていた。耐えられなくなって、エアコンを除湿モードに設定した。汗はかいていなかったけれど、後頭部がひどく熱くなっていたので、急いで水分の補給をした。「もし、眼が覚めなかったら、寝ている間に熱中症で死んでいたかも?」そう思うと、気の小さい私は、パニックになりそうだった。そんな不安のせいで、あたりが白むまで眠れなかった。
25℃を超える熱帯夜は、今に始まったことではない。問題は、高すぎる湿度!その逆に、真冬の就寝時に乾燥しすぎても、やはり息苦しくなる。要するに、「快適湿度」というものに対し、よほど過敏な体質なんだろう。困ったものだ。
朝っぱらから散々な目に遭ったせいで、今日1日もどうなることかと思った。でも、毎週情報が届く「<a href="http://concerts.wolfgangsvault.com/">Wolfgang's Vault</a>」の新たなラインナップを見て、思わず顔がほころんだ。Hot TunaにWarren Zevon、それにLevon Helm & The RCO All Stars!まるで、誕生日の前祝いをしてくれているような顔ぶれ。SRVMuddy Watersもいる。どれから聴こうか迷った結果、Hot Tunaを選んだ。1988年3月4日、フィルモア・オーディトリウムでのライヴだったから。確かその頃、Bill Grahamがフィルモアを復活させたんじゃなかったっけ?もしや、これがリニューアルのこけら落とし?私にとって「氷河期」だった80年代の出来事については、どうも記憶が曖昧になる。
セットリストを見ると、JA時代の「Martha」や「Volunteers」も入っている。まさか、それらをJormaが歌うわけがない。早速聴いてみると、なんと、Paul Kantnerもゲスト参加していた。それだけではない。「Good Shepherd」では、Graceまでコーラスをつけていた。1度Tunaを離れたPapa John Creachも戻っていた。1stでハーモニカを吹いていたWill Scarlettまで現れた。
これが、翌年行なわれたJAの(不完全な)リユニオンにつながったということだろうか?でも、この時のライヴは、リユニオンの何倍も活気があった。JAとは無関係の職人(?)ミュージシャンまで紛れ込み、色々な意味で不満だらけだったリユニオン・アルバムと比べると、まあ当然のことだろうけど・・・。

Blood In The Water/Colin Brooks

今日は「水の日」らしい。調べてみると、ちょうど30年前に決まったという。全然知らなかった。私が住む場所は、常に水辺だということは、<a href="http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=435022&log=20040505">以前の日記</a>にも書いた。その後、また引越したけれど、今住んでいるのも川のすぐそば。これも、一種の運命のようなものだろうか?そのせいか、「水」という言葉には、つい反応してしまう。
さて、「水」のつく曲で、一番新しく知ったのは今日のタイトル・ソング。これまで、タイトル・ソングについてめったにふれず、せっかく読んでくださった方の期待を裏切ることが多かったけれど、今日は、字数の許す限り書いてみたい。
この曲を知ったのは、私にはよくある「芋づる式」発見によるものだった。まず、ちょっとしたきっかけで、Gordy Quistという若いSSWに興味をもった。調べてみると、彼は、ソロとしてだけでなく、The Band Of Heathensというバンドのメンバーとしても活動している。そのバンドの映像を見ていたら、彼以外のメンバーがヴォーカルを取っている曲もいくつかあった。その中で、「Mexico」という曲が気になった。歌っているのは、Colin Brooksという、これまた、初めて名前を聞く人だった。さらに好みの「Hanging Tree」という曲を見つけた。何と、それを歌っているのもColinだった。彼もまたソロ活動をしていて、これまでのアルバムを早速試聴してみると、曲調といい、声といい、歌い方といい、Gordy以上に私のツボをとらえてしまった。特に、この「Blood In The Water」は、ブルージーなメロディはもちろんのこと、重くて暗い歌詞も妙に耳に残って離れない。
こんな風にして、1人のミュージシャンをきっかけに、新たなお気に入りを発見するというパターンは、2年前にTroy Campbellの名前を知ったことで、彼が在籍していたLoose Diamondsを知り、そこから“Scrappy”Jud Newcombにハマってしまったことによく似ている。こうして、次々とお気に入りが見つかる喜びと興奮は、実際に、それを味わった人にしかわかってもらえなに違いない。もちろん、60年代、70年代のバンドやミュージシャンにこだわり続けるのも悪くはないけれど、それに固執するあまり、現在進行形の人たちのことを見逃してしまうのは、実にもったいない。前にも、似たようなことを書いた気がするけれど、改めてそう思う。
そして、Colin BrooksとGordy Quistという2人のお気に入りを抱えるThe Band Of Heathensからも、目が離せなくなった。こうして、また新たな楽しみが増えていく。

Maggie's Farm/Hot Tuna with BobWeir&MariaM.

昨夜、運良く『Newport Folk Festival 1963〜1966』を見ることができた。すでにDVD化されていることはおろか、詳細ラインナップすら知らず、Dylanが見られるだけで充分!という軽い気持ちだった。ところが、出演者名が最初にズラッと出たのを見たとたん、姿勢を正した。90分程度の放送時間では、1組あたりの時間があっという間だということが、容易に想像できたから。そうなると、どこに誰が登場するのか、ほんの一瞬たりとも見逃すわけにはいかない。
そう思いながら見始めたものの、PP&MやJoan Baezの出番がやたらと多い。時代的にも、また、フォーク・フェスティヴァルという性質上、それは仕方のないことだろう。けれども、彼らに割かれる時間が多すぎて、名前は挙がっていても画面に登場しない人たちもいるのではないかという不安にかられた。
目当ては、DylanやPaul Butterfield Blues Band、それにMissisippi John HurtやHowlin' Wolfといった予期せぬブルーズ・メンの面々はもちろんのこと、DonovanやBuffy Sainte-Marieも気になった。でも、もしカットされるとすれば、Buffyあたりだろうなと、半ばあきらめていた。
幸い、それは心配無用だった。しかも、一番聴きたかった「Codine」の本家本元ヴァージョンが聴けたので、思わず声を上げた。
私はこの曲のQMSヴァージョンが病的なまでに大好きで、いつ聴いても、首筋と背中に鈍重な衝撃を受けて、床の上をのたうち回っているような気分になってしまう。でも、それは決して不快なものではなく、「ナチュラル・ハイ」に近い。この曲自体、ドラッグ・ソングだけれど、完全にシラフの状態で聴いている私まで、そんな気分になってしまうのだから恐るべし。
QMS以外に、Donovan(取り上げるきっかけになったのは、この時、Buffyのオリジナルを生聴きしたから?)、<a href="http://www4.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=435022&log=20050326">Gram Parsons</a>、Charlatans、Manなどもカヴァーしている。でも、この曲の真髄を味わえるのは、作者Buffyには申し訳ないけれど、やはり、QMSの重苦しいヴァージョン!
おっと、本題から大きく逸れてしまった。
Dylanは、Paul Butterfiled Blues Bandを従えて「Maggie's Farm」を披露し、大いに物議を醸すことになった。この曲を初めて聴いたのは、Rolling Thunder Revueのヴァージョンだったので、後にオリジナル・ヴァージョンを聴いた時は驚いた。でも、そっちの方がずっと好きだし、この時のブルージーなライヴ・ヴァージョンも、同じくらい気に入った。