Favorite One/Matt The Electrician

多分、小学校に入ったばかりの頃だったと思う。こっそり盗み読みした親の本に、「むしゃくしゃした時(「ストレス」という言葉は、当時、まだ一般的ではなかった)には、花を大量に買って気晴らしする」と、誰かが書いているのを見つけ、自分も大人になってそんな気分になった時は、ぜひ真似してみようと思ったものだった。ところが、実際にそれを試してみたことがあるかといえば、微妙な答えしか出てこない。たとえ花屋さんに行ったとしても、大量に買い込む度胸はなく、気に入った花を一輪手に入れるだけで終わってしまう。それよりも、本やCD、あるいはおもちゃを大量に買って気を紛らすことの方が多いのだから、なんて即物的なんだろう。
ところが、今日はいつもとちょっと違っていた。このところ、理由もなく気分がスッキリせず、やる気が出ないでいた。音楽もほとんど聴いていないし、日記も滞ったまま。かといって、やけ酒・やけ食いでストレスを発散させるタイプではないので、こんな時にこそ花屋さんに行くべきかと思ってみたけれど、それよりもっと手軽な気晴らし法があった。それは野菜の買いあさり。たまにしか行かないスーパーまで足を延ばし、そこで、「式部草」という、見たことも、聞いたこともない葉っぱを発見!葉の裏側が濃い紫色をしているため、「紫式部」にちなんで、この名がついたと説明されている。元々、「金時草」や「水前寺菜」として知られていたらしい。好奇心にかられて、つい手が伸びた。一把48円というのもうれしい。ついでに、すぐ隣に並んでいた長さ4〜50cmもある、やはり濃い紫色の葉が眼に留まった。ラベルには「からし菜」と書かれているけれど、他所で見るものとは色も大きさも違う。あまりの見事さに、カゴに入れずにいられなくなった。こうなると、勢いは止まらない。「わさび菜」と「はたけ菜」(どんな野菜でも畑で採れるのだから、この名前は反則ではないか?と前から気になっていた。結局、アブラ菜科の葉だということがわかった)、さらには定番の水菜まで、次々に手に取った。とはいえ、やや胡散臭い名前の「うまい菜」と「つまみ菜」に手を出すのは、次に回すことにした。
考えてみると、葉っぱ好きとはいえ、柔らかそうで、クセのない白菜系には、あまり食指が動かない。つまるところ、アクや苦味の強いものや、ピリッとしたものを好むということで、これは野菜に限らず、他のすべてのものにも当てはまるといえる。
こうして、レジを通っている間にウキウキしてきた。ただの葉っぱだといってあなどってはいけない。