Hit Single #1/Hot Tuna

ヒット・シングルにはまったく無縁のHot Tunaらしい、皮肉たっぷりのタイトル・ソングから、面白いエピソードを1つ思い出した。それは、私が大学生で初渡米した夏、グラント・レコードのオフィスを訪れた時のことだった。グラントとは、それまでのレコード会社による様々な規制に反発したJAやTunaが作り上げた独自のレーベルの名前で、「grunt」=「文句をブーブー言う」という、たっぷりの皮肉をこめてつけられた。
オフィス所在地はFulton通り2400番地。そう、何度か話題にしている通り、JA時代にメンバーが共同生活していた建物が、オフィスとしてそのまま利用されていた。意外に慎重派の私は、念のため渡米前に手紙を出して訪問許可を得ていたものの、ドキドキしながらドアのベルを鳴らした。この建物、共同生活の頃は「白亜のエアプレイン・ハウス」として有名だったのに、訪れた時は、何もかも真っ黒に塗り替えられて違和感があった。
広い邸内に居たのは、広報担当の女性ただ1人。ブロンドのボブカットがよく似合うCynthiaという美女(後に、Paulの恋人で、Alexの母親となったことが判明したけれど、やっぱりね)。あいにく、JS(JAはすでに解散し、メンバーを大幅に入れ替え、バンド名もJefferson Starshipとして再出発していた)とTunaはツアーの真っ最中で不在だったけれど、その分、彼女1人で手厚くもてなしてくれた。ひと通り案内してくれた邸内で、一番感激したのは地下室。「Jefferson Airplane」のロゴ入りのアンプが多数残されていた。そこで、QMSやGrateful Dead、Santanaらを迎えてジャム・セッションが繰り返されたのだと思うと、興奮が治まらなくなってきた。そして、階上の部屋に戻って特別に聴かせてくれたのが、Tunaの「It's So Easy」のデモ盤だった。Buddy HollyフリークのJormaがカヴァーしたこの曲は、その後まもなく出ることになっていた7枚目のアルバム『Hoppkorv』に収録されている。Cynthiaは、「シングル・カットしてヒットを狙うのよ!」と笑っていた。
ところが、そんなささやかな目論見も、太刀打ちできない強力なライヴァルの出現により、ただのジョークで終わることになった。同じくBuddyフリークのLinda Ronstadtが、大ヒット・アルバム『Hasten Down The Wind』に続いてリリースした『Simple Dreams』で、やはり「It's So Easy」をカヴァーしていたのだった。この絶妙なタイミングを、何と説明すればよいのだろう。案の定、Lindaヴァージョンは大ヒットし、今も、たいていのカラオケ店のメニューに入っている。