まぶしい夏/森田童子

今日からまた今シーズンの開幕。上演は3ヶ月続く。さて、一体何のこと?答えは「セミ合唱団」。まだ梅雨も明けていないのに、今年は開幕が早い。家の付近には野鳥だけでなく虫も多い。夏にはセミ、秋にはコオロギやキリギリス、ひどい時には昼はセミ、夜はコオロギ、と1日に2種類のライヴを無理矢理聴かされることもある。
で、セミが出てくる曲で最初に思いついたのが、今日のタイトル・ソング。思いっきり暗い歌詞なのに、なぜかセミが登場する。
でも、リアルタイムで聴いていたわけではないし、彼女のことが特に詳しいわけでもない。帰国したばかりの頃、退屈しのぎに映画上映サークルのようなものに入っていた。メンバーはわずか数人。その中に、私よりかなり年上で、ちょうど大学紛争の真っ只中に学生時代を過ごし、アングラ劇団やアートシアター系の映画にとても詳しい人がいた。新聞記者として飛び回るその人は、私のことをとても気に入ってくれて、何かとかまってくれた。ちょっと変わった物を、さりげなくプレゼントしてくれることもあった。たとえば、童話「赤いロウソクと人魚」に出てくるような、今では珍しい手作りの和ろうそくや、三角錐の形をした東南アジアのタバコ(私がタバコを吸わないのは知っていたけれど、形が珍しいのと、中に詰まっている葉っぱが緑色で、何やら別のものと間違えそうで笑えるから、という理由で)、それに映画のシナリオなど。また、私に似ていると言って、Edvard Munchの『マドンナ』のリトグラフのレプリカ・ポスターをくれたのもその人だった。恋愛感情はまったくなく、話の合う良い友人にすぎなかったけれど、不思議なくらい私のことを鋭く見抜いてくれていたと思う。ある時、私が人前では決して歌わないことを知りながら、「もし歌えば、きっとこんな声で歌うと思う」と言って聴かされたのが森田童子だった。それまで聴いたこともなく、「いつもサングラスをかけた怖そうな女の人」というイメージしかなかったので半信半疑だったけれど、1曲聴いて納得した。クールな外見とは違い、たどたどしく、そしてか細く歌う声は、確かに自分に似ていると思った(ただし、私の方がもっと音程がハズれている)。
それから何年も過ぎ、彼女の曲がTVドラマで使われたのをきっかけに、安いベスト・アルバムも出回るようになり、何となくなつかしくなって買ってみたら、このタイトル・ソングも収録されていた。