Don't Stand So Close To Me/The Police

20日の続きを今頃書く。れいの美術室の出来事の後日談。
その時以来、校内で顔を合わすたびに、その子は前よりもう少し親しげに、はにかんだ微笑を見せてくれたけれど、3学期になると、私達3年生は受験のためほとんど登校することがなくなった(実は、2年生のその子も、いつの間にか登校拒否になっていたらしい)。卒業式が近付いたある日、その子が美術室でほとんどしゃべらなかった理由を、ふと、人づてに耳にした。あの後すぐに、親しい友人に洩らしていたという。それは呆気にとられるほど単純な理由だった。「余計なことをしゃべって、子ども扱いされるのが怖かったから」だそうだ。きれいな子を眼の前にしてすっかり舞い上がっていた私が、そんなことをするわけないのにね。そして、もう1つ意外な事実も判明した。それより1年ほど前、友人と2人でJeff Beck GroupとYardbirdsのレコード・コンサートを開いた時、その子も来ていたという。これには驚いた。何しろ、ズバ抜けた音響効果のある視聴覚教室をわざわざ借り、告知ポスターまで自分達の手で作って主催したにもかかわらず、当時のJeffの知名度は悲しくなるほど低く(というより、ロック・ファンそのものがごくわずかだった)、お客もまばらだったのだから。そんな中にきれいな男の子がぽつんといたら、絶対に見落とすわけがない。照明を落としていたし、せっかく来てくれたお客のことをほとんど無視して、友人と2人でレコード鑑賞に没頭していたから、気付かなかったのだろうか。
さらに仰天したのは、大学2年の夏休みのこと。帰省先のレコード店でバイトをしていたら、突然その子が入って来た。どうやら、私がそこに居ることを知っていたようだ。いきなり近付いて「今からどこかへ行こう!」と言った。あんなに無口だった子が、別人のように強引な態度を見せるなんて、どうかしている。もちろん、仕事をサボるわけにはいかないので断った。以前よりさらにやせて、パンク・ロッカーみたいなヘアスタイルをしていた。きれいというより、不健康的にさえ見えた。幻滅こそしなかったけれど、それ以上顔を合わせない方が良いと察した。そうしないと、美術室で何時間も眺めていたあの時のことまで、消えてしまいそうだったから。きれいな子は、いつまでもきれいなままのイメージでいてほしい。こんな風に思うのは、自分の都合しか考えていない、ただのわがままなんだろうか?多分、そうだろうな。