Ice Age/Jorma Kaukonen

小学生の頃からロックに興味をもっていた私にも、氷河期があった。それは、80年代初めからの10数年間。ちょうど、ロックが巨大ビジネスと化した時期とほぼ一致する。「どうすれば売れるか?」ということを念頭に置き、一般受けするために計算し尽くされたものを聴いても、興味が沸くわけがなかった。一分の隙もなく編集されたMTVを見ても、かえってしらけるだけで、結局、初期の段階で見るのをやめた。AOR(あくまでも日本的解釈において)の台頭もそれに輪をかけた。何もかもソツなくスムーズに流れ、全然、耳に引っかかってこない。道にたとえると、何の障害物もなく、まっすぐに伸びるきれいに舗装された道路のよう。私が好きなのは、石ころだらけで、傍らに草花が咲いていて、途中、いつどこで野生の動物が姿を見せるかもしれない、そんなドキドキ感がいっぱいある田舎道(ただし、現実に歩くのなら、舗装道路の方が良いに決まってる)。
そういうわけで、その時期はMTVも見ず、ラジオも聴かず、音楽雑誌も買わず、レコード店に足を運ぶこともなく、新しい音楽をあえて避けていた。以前からお気に入りだったアーティストの新しい動向を追うことさえなかった。おかげで、貴重な来日ライヴをいくつも見逃す羽目になった(WZやEMの再来日も)し、いくつかのアルバムを買い損ねてしまった。
90年代半ばになって、その氷がようやく溶け始め、また少しずつ新しいものに耳を傾け、音楽雑誌にも時々眼を通すようになった。すると、ロックに対して一種の幻滅すら感じていた80年代とは、状況が何となく変わってきたように思えた。つまり、世に出ているのは、退屈でコマーシャリズム溢れるものばかりではないような気がしてきた。その後、ネットを始めるようになると、閉ざされていた視界はさらに広がっていった。それでも優先するのは、それまで好きだったアーティストの聴きもれているものを補充すること。そして、かつて気になりながらも、聴きそびれていた人たちを聴いてみること。この2つがメインだった。でも、それに加えて、偶然ネット上で耳にしたり、色々な人から薦められて気に入った(あるいは気に入りそうな)未知のものがどんどん増えていった。私は生来欲張りなので、これはうれしい悲鳴だった。そんな中、いよいよ本気で聴き始めようと思うのが、いわゆる「オルタナ・カントリー」のジャンル。1〜2年前にネットラジオで数曲聴き、気になりながらも、なぜか足を踏み入れそびれていた。幸い、頼りになる先生も見つかったので、そろそろ良い機会だと思う。