Walking The Dog/The Rolling Stones

仕事モードが続いていて、ほとんど外に出られない。週末には実家に帰らなければならないので、そのロス・タイムを計算に入れて、ピッチを上げようとするからなおさら慌しい。でも、夕方、少しだけ買い物に出た。
スーパーまで行く途中、よく通るコースに、いつもうるさく吠えている犬がいた。りりしいドーベルマンで、民家の玄関先の庭のようなスペースにつながれて、誰かが通りがかるたびに、無差別に吠えたてていた。私は、どういうわけか、犬にはあまり吠えられない。それなのに、そのドーベルマンは、私にまで吠えてくる。そうなると、私の性格上、何が何でもおとなしくさせてみたくなった。まあいわば、じゃじゃ馬ならしの気分。
それで、通りがかる時、自転車を停めて、その犬と向き合うことにした。たいていの場合、そうすることによって、こちらに敵意がないことが伝わり、おとなしくしてくれるはずだから。ところが、よく見ると、一般民家だと思っていたその家の門に「○○組」という看板が掲げられていた。もちろん、○○組というのが、全てヤバい組織を表わすわけではないけれど、中からチラッと見えた人影は、どことなく怖そうだった(これまた、見た目で判断するのはよくないけれど)。一瞬の間にそう悟ったため、そばに近寄るのはやめて、やむなくアイ・コンタクトだけで済ませることにした。
ところが、これが思いのほか効果的で、その後、何度か通るうちに、まったく吠えなくなった。ケッサクだったのは、ある時、その家の近くで、サングラスにスキンヘッドの強面のおじさんが、その犬を散歩させようとしていたのに遭遇した時のこと。犬は、私の方に勢いよく向かってきたので、そのおじさんは慌ててリードを引いた。普段から誰にでもよく吠えていることを承知しているので、その時も、てっきり、私に向かって飛びかかるのではないかと思ったに違いない。ところが、そうではなくて、うれしそうに尻尾を振って、私にじゃれつこうとしたものだから、おじさんは驚いていた。いつも、一見獰猛そうな番犬の役目を立派に務めていたはずの犬が、見知らぬ人間に、いきなり尻尾を振るなんて、きっとショックだったんだろう。でも、私は、してやったりという表情で、その場を通り過ぎた。
それ以来、そこを通るたびに、頭を撫でてやりたい衝動に駆られるけれど、中にいる人に見つかると怖いので、さりげなく横目で挨拶だけして通り過ぎることにしている。今日もそう。もちろん、犬はそれに対して、きちんと尻尾を振って、かわいく応えてくれる。